髭剃り
朝の通勤ラッシュの時間帯。
渋谷駅構内は、異様に混んでおります。
人波が、田園都市線のホームに向かって続きます。どの人もどの人も、夢遊病者のように心をなくして歩いています。私もその1人であることに、間違いがない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
ふっ、と。人波の中で、奇怪な光景を目にしてしまいました。人波に紛れて歩きながら、電動髭剃りで、髭を剃っているおじさんを見つけました。私、そういうのは、人より気づいてしまうところがあります。
うそでしょー?
二度見してみました。
うそじゃありませんでした。
髭剃ってます。自分の顔に手を当てて、剃り残しを確かめながら、入念に。入念に。
単純な疑問が湧いてきます。
家で剃れなかったんだろうか?
ある時は、帰りの駅のトイレで。
私、用を足して、手を洗おうとしたら、三十代くらいのサラリーマンが、剃ってました。電動髭剃りで。鏡を見ながら、執拗に。顔の筋肉を伸ばしながら、剃りにくい口の下部分、左右のエラの部分、顎の裏部分を、顔がツルツルになるくらいまで、剃ってます。
彼女に会うんでしょうか?
接吻をする時にザラザラするから、剃って!って、言われたんでしょうか?
でもね。でもね。
夜に剃ったら、濃くなるよ。
かなり、ね。
私も髭が濃いので分かります。
自分の顔から髭が生えずに、スベスベとした感触を味わえたら、なんて、素敵なんでしょう。
毎朝、髭を剃る時間がなければ、あと、何分眠れるんだろう。
髭、何のために生えて来るんだろう?
髭。ザラザラしてるだけで、無駄な髭。
あー、髭。
ちなみに私、T字剃刀で髭を剃ると100パーセント、剃刀負けしちゃいます。血が出ます。
完
バリ島の思い出⑥
バリ島の新婚旅行日記の第六弾となります。
インドネシア旅行3日目。夕方に旅行会社のオプショナルツアーを予約していた、私達新婚夫婦は、集合場所のホテルのロビーへ向かった。
ロビーに着くと、すぐに旅行会社の現地コーディネイターが、こちらにやって来て、流暢な日本語で話しかけてきた。
「テラシマサマデスカ?」俳優の伊武雅刀のインドネシア版の様な顔をした彼は、
業務的な必要最小限の日本語を駆使して、私達を乗せるタクシーへと案内してくれた。
コーディネーターと私達夫婦は、タクシーへ乗り込む。
コーディネーター
「キョウハシチジカラノミンゾクブトウデスネ。ソノマエニ、カイモノシテカラ、ユウショクニシマスカ?」
と聞かれたので、私が「そうだ。」と伝えると、彼は、運転手にその事を伝える。
程なくして、ウブドの街へとタクシーは、走り出す。
コーディネーターが、再度、話しかけて来る。
「ナニカカイモノシマスカ?タベモノヤハキマッテイマスカ?」
私達は、行きたい店があると伝えたが、コーディネーターは、こちらの話を受け入れてくれずに、話を進めようとする。
「ザンネンナガラ、ゼンブマワルコトハ、ムズカシイトオモイマスノデ、ワタシタチノオススメノミセニ、ゴアンナイシマスヨ」
オプショナルツアーは、ある程度の自由が利くツアーだと思っていたが、どうも違うらしい。
妻が私に、
「彼らは、自分たちの知っているお店を回って、なんか買わせて。。店側にマージンを貰ってるのよ。
だから、向こうの言いなりになると損するし、自由に行きたい店に行けないよ。」
と耳打ちしてきた。
けれども、無下に断ると、タクシーから降ろされても困るので、取り敢えずは、向こうが薦めて来た土産屋を回ることにして、自由にしてもらう機会を待つ作戦を取った。
まず初めに連れてこられたのは、観光客向けの土産物屋。
インドネシアのキャイーン天野君のような風貌の不機嫌そうな店員のいる店だった。
ざっと見渡して、大したものは、売っていなかった。
売っていなかったのだが、いちいち我々について回る、天野君のプレッシャーが、相当な強さだったので、申し訳程度にバリの絵柄のパッケージのクッキーを買うことにした。(このクッキーは、会社の部長用のお土産になりました。すいません。)
天野君は、不機嫌そうな表情で私をレジに誘導し、不機嫌そうに会計をさせて、不機嫌そうに私達を見送った。
店を出ると、天野君と伊武雅刀似のガイドは、何やら目配せをして、コミュニケーションを取っていることに気付いてしまった。
「この客、だめだよ。クッキーしか買わねー。商売あがったりだ!」とでも言っているような表情に見えた。
次に連れていかれた店は、アクセサリーのお店。
私達は、インドネシアの幸運を呼ぶお守りと呼ばれている、ガムランボールなるものが欲しかったので、それを探してみた。
しかし、特別にデザインの良いアクセサリーはなかったので、私たちは、興味のある振りをして、何も買わなかった。。。
過去の記事は、こちらです。
へたくそですが、読んでくだされば、私の明日の希望になります。
俺は冷たい人間
会社帰りの電車を待つ。
溢れるほどの人を乗せ、電車がやってきた。降りて行く人の流れを見ながら、俺は、電車に乗り込もうとする。降りようとしていた、おじいさんが、自分の鞄を落とした。その鞄を拾おうとしゃがむが、次から次へと降りる人の波に押されていった。
鞄は取れない。おじいさんはよろけてこけそうになる。
それを目の前で見ていたのに、俺は、俺は、都会人の顔をして、知らんぷりで手を差し伸べようともしない。
なんて、冷たい人間なんだろう。
初詣とお月様
年末から、2日にかけて、妻、1歳の息子、私の3人で、妻の実家へ帰った。
先に兄夫婦の奥さんと3歳になる甥っ子と7ヶ月の姪っ子も妻の実家に来ていた。7ヶ月の姪っ子は、比較的おとなしい方だが、3歳になる甥っ子は、わんぱく盛りとイヤイヤ期で中々、きかない。公園に行くと決めたら、雨が降ろうが槍が降ろうが、「公園に行く、公園に行く、公園に行く、公園に行く、公園に行く!」
みかんをもう一個食べたいと思ったら、「みかんもう一個食べる、みかんもう一個食べる、みかんもう一個食べる、みかんもう一個食べる、みかんもう一個食べる!」と面倒くさい!
妻のおかぁさんは、一昨年、独り身になり、寂しい所だが、そんなわんぱくがいるので、かえって賑やかで嬉しそうだった。
元日。皆でおせちをつつき、団欒したあと、混雑を避け、皆で初詣に行った。昼の3時なら、混んでいないだろうと出かけて行ったが、皆、同じ事を考えているのか、混んで行列が出来ていた。
並んでいる最中に、妻のおかぁさんが、3歳の甥っ子に、何をお祈りするの?と聞くと、「僕はねー。いーっぱいご飯食べられますように、お願いするの」と、現実的な、答え。
1時間ほど、並んだだろうか?
順番が回ってきて、みんなでお祈りする。私もお祈りする。
家族が安心して暮らせますように。
妻の実家への帰り道。
陽は落ちて、すっかり夜が顔を覗かせている。上り坂、下り坂、でこぼこ道、みんなでゆっくりと歩く。歩いていると辺りは暗くなり、街灯が優しい時間帯になってきた。
妻のおかぁさんが、空を見上げて言う。「見て、まんっまるのお月様」
3歳の甥っ子に、教えてあげると、何度も何度も振り返り、その月を見て、「おっきな月だねー。」と、びっくりしていた。
我々大人も、いつもより大きくてまんまるの月を見上げ、感激していた。いつのまにか、その場所が思い出になっていた。
その月が、スーパームーンだと、知ったのは、2日後のことだ。
年末クレームおじさん
年末の街角、ベンチに座っていたら、声が聞こえて来た。おしゃれハットに、柄のシャツにジーンズ。ナイキのスニーカーを履いた若風のおじさんが電話してる。
わかってんの?さっきからさー、わかりません。わかりません。って、俺は客だよ?
担当の誰に電話してるかもわからずに電話して来て、適当なこと言ってるけどさー。なんなの?あんたの上司に電話させろよ。
いやいや、何言ってんだよ?意味がわからない。おたく、金融関係でしょ?他の金融関係の方がちゃんとしてるよ。そんなんなら、乗り換えるよ他のとこに。
えっ?うんうん、わかったよ。わかった。じゃあ、上司に電話させて。すぐ、電話して。すぐ。すぐだよ。
正当な理由でクレームを言っているかもしれないんだけど、周りに聞こえるくらい大声だし、偉そうだし。こちらがクレームを言いたい!
なんて年末の一コマ。
俺は50万で売られてる⑤
派遣元に搾取され、派遣先でもいいように働かされてる俺。
2人でやるべき仕事を1人でやらされている。担当は1人。機械関係の仕事。文系で、詳しくない俺が機械のことなどわかるわけがないのに、こんな仕事に放り込まれちまった。
他の人間は、更に、俺より詳しくなく、手伝ってもらうにも手伝いようがない。全て俺に集中する仕事。
仕事を休めない。仕事が追いかけてくる。毎日、毎日、追い込まれてる。
朝、早くに目覚めてしまう。寝ていても仕事が追いかけてくるんだ。
たまに声を上げて起きてしまう「うわーーーー!」
妻と子供に申し訳ないが、精神状態がおかしい。
ある日、妻に何なのか?と言われた時に思わず口を突いていた。「うるせー!」
最悪だ。一番信頼してる人間に怒鳴ってしまった。
なんで、こんなになったんだ?
馬鹿野郎!仕事で追い込まれて、何故、こんなことにならなきゃならないんだ?
仕事ってなんだ?
毎日、酒を飲んでしまう。
酔えない。
最悪だ。典型的なだめオヤジだ。
ある日、俺を搾取している派遣元の取締役と部長が、やってきた。
俺に追い打ちをかける。
お前、この仕事だめなら、社会人としても終わりだぞ。
お前は、派遣先に雇ってもらってるんだぞ。ありがたく思え。
何故お前1人でやらせてるかわかるか?2人にしたら、派遣先にもらってる金に見合わないからな。
お前は50万なんだよ。
お前らはいくら懐に入ってくるんだ?派遣先はいくら、懐に入れてるんだ?俺は、幾らの価値なんだ?人を物のように扱いやがって。
社会人として終わりだと?
全世界を見渡してそう判断してんのか?お?
俺がいつまでも奴隷だと思うなよ。