3週間ほど前、天気があまりにも良かったので、マンションのベランダから、遠くの山を眺めていた。
いい眺めだ。
山の一点を見つめていると、何か飛んでいる気がする。
いや、気がするのではなく、
飛んでいる。
あー、飛んでるね。
蜂だね。これは、蜂だ。
しかも、スズメバチっぽいよ。
管理会社に電話してみた。
どうやら屋上に、スズメバチの巣があるようだ。ちょっと見てほしいと、調査を依頼した。
すぐに折り返しの電話が来て、結果報告。管理会社の担当は、冷たく私をあしらうかのように言う。
蜂の巣はありませんでした。
どうぞよろしく。
という伝言を留守番電話に残して。。
改めて外を見る。
いや、飛んでるよ。ベランダに蜂。飛んでるよね。普通に。
ベランダに?
次の日、会社から帰ると、嫁が言う。うちのベランダに蜂の巣があるね。どうやらアシナガバチの巣みたい。。
いやいや、もっと大きいよー。
スズメバチくらいのサイズだもの。
妻はいう。
いや、巣がとぐろ巻いていないから、スズメバチではないねー。
私も巣を確認する。
確かにあれは、アシナガバチの巣のようだ。
それからというもの、毎日のように私のうちのベランダにハチが飛んで来るようになった。
と、いうか、前から飛んでいたのだが、こちらが気づいてなかっただけだ。
蜂の駆除業者に頼もうと嫁に提案すると、嫁は納得しない。
蜂の駆除業者は高いでしょ?
ちょっと、区役所に聞いてみるよ。
いやいや、蜂は危ないからやめろって!
嫁は聞かない。。
数日後、会社から帰った私に嫁が、また、言う。
今日、区役所に電話してみたらさー、アシナガバチなら、自分で駆除出来るって言ってたよ。
私やるよ。
だから、やめろって!
土曜日の夜。
嫁は、雨がっぱにマスク、ゴキブリ殺虫剤を携え、これからアシナガバチの巣を退治すると言い出した。
よせばいいのに、彼女は、本当にベランダに出て、殺虫剤を振りかけ始めた。
攻撃されたアシナガバチが、何匹も宙を舞う。
次々と落ちていったが、1匹だけ、うちの中に入ってきた。
嫁。
何か、羽の音がしない?
何か羽の音がしない?
部屋に入ってきてるっちゅうに、
だからやめろって言っただろ?と、私。
わたしは昔、蜂に刺されたことがある。もう一度刺されたらアナフィラキシーショックで倒れる危険な状況。
だから、蜂が怖いのだ。
そのことを私は嫁に何度も言っていたのだが、嫁は私を一人、ハチの侵入した部屋に残して、息子の眠る寝室にさっさと逃げ込んだ。。。
そっちの部屋に行かせるわけにはいかない。。
やだなー。でも、戦うしかない。
改めて、えー?俺やるのー?と独り言。
腹を決めて、私はゴキブリ殺虫剤を右手に携えアシナガバチと対峙する。
凄い飛んでるのか?と思ったけど嫁の殺虫剤が効いていたせいか、もうすでに虫の息。
しかし、アシナガバチってでけーー!こんなにあんの??
こわっ。
虫の息だが、私は、最後のトドメとばかりに殺虫剤を何度も蜂に吹きかけた。
すると、蜂は動かなくなった。
この死骸を処理するのがまた、厄介だ。ハチは死んだとしても、その針を指で触れようものなら、たちまち身体に毒が回ってしまう。
死んでも怖いハチ。
このハチのおくりびとは、私がやる、と嫁が率先して言って来たので、申し訳ないが、嫁にお願いすることにし。
嫁がハチを処理したその後、部屋の中にアシナガバチが飛んでいないか、入念に確認する私。
どうやら部屋の中にはアシナガバチの存在は確認できなかった。
それじゃあ、ベランダはどうなっている?
部屋の明かりをつけ、ハチの様子を見る。地面には十数匹ほどのアシナガバチが倒れている。
嫁の殺虫剤で倒れたハチたちだ。
しかし、即死かと思いきや。
まだ、動いている。
しかも、少しずつ、倒れた場所から移動して、なんとか生きようとしている。
1時間ほどその様子を観察していると、彼等はゴロゴロとはじめにいた場所から15センチほど、移動して、固まろうとしている。
なんて生命力なんだろう?
私も寝室に行き、眠りについた。
翌朝。
嫁に退治されたアシナガバチはどうなったか?気になり、真っ先に様子を見に行った。
まだ、動いている。。。
なんて生命力!
しかも、嫁が巣に吹きかけた殺虫剤は、全てのハチたちに命中したわけではなく、まだ、何匹も巣を行ったり来たりして、飛び回ってるじゃーないか!
素人駆除失敗。
なんて、中途半端なことをしてしまったんだ。
もう、素人では無理だ。
ハチの駆除業者に片っ端から電話する。
一件目電話する。
すぐ来てもらいたいんだけどと、私。
申し訳ありません。
担当が月曜にならないとつかまらないので、すぐには無理です。
ダメ。
二件目。
すぐ行けます。また、担当つかまったら、改めてお電話しますよ!
程なくして電話がかかって来た。
すぐ、伺えます。
ほんとですか?ところで料金は?
三万円です。
え?
ぼったくり。却下!
三件目。
すみません一万円以内でハチの駆除をお願いしたいんですけど。
一万千円なら。。
いや、一万円以内でって言ったよね?
却下!
4件目、便利屋さん。
一万円以内でお願いしたいんですが。。
9千円でやりまよー!
即決。
便利屋さんに、即日でアシナガバチの駆除を頼むことにした。
しかもあと一時間で向かうとのこと。早い。仕事が早い。
一時間後、便利屋さんが来た。
???一人?
ハチの駆除だから、何人かでやるんじゃないの?
しかも出で立ちが半袖、短パン。
大丈夫なのかなー?
ちょっと、巣の方を確認します。失礼します。
あー、なるほどー。
それじゃあ、準備して来ますんで、少しお待ちください。
なんだー、ここで、弟子連れてくるんだなー。そうかそうか。
お待たせしましたー。
え?やっぱり一人だ。誰も他にいない。
しかも、完全防御でくるのかと思ったら、白い雨合羽みたいな上着と、頭に懐中電灯。そして、遠くに飛ばせるホームセンターに売ってる殺虫剤。
下はさっきと同じ短パン。
いや、肌、露出してるからね。
刺されたらどうすんだろ?いや、刺されるでしょ?
それじゃー始めまーす。
便利屋さんは、予想に反して手際よく、駆除を始めた。
ハチの巣に殺虫剤を吹きかける。
嫁が殺ったハチの死骸を長いトングみたいなのでビニールに摘んで行く。
ハチの巣を元から取り除く。
時間にして15分。
はい、終わりました。
ハチの習性として、巣のあったところにもう一度巣を作ることがありますので、それだけ気をつけてください。
それでは、9千円頂きます!
と言って、去って言った。
嫁、ひとこと。
やっぱり、ハチの駆除は素人がやっちゃいけないねー。
あー、怖かった。。
怖いのは、そんな発言をするあなたです。
嫁は懲りずに、ホームセンターに行った際、長く飛ばせる殺虫剤をながめていた。
もう、やめろって!
蜂の駆除代行業者に電話しまくる