正義感の強い青年。

四年くらい前の夏。まだ、妻と結婚したばかりだったでしょうか?
目黒で飲んだ帰りの目黒線。席に座って、取り留めもない話をしながら、電車に揺られておりました。
目の前には、高校生か大学生かはたまた20代前半くらいの女性の二人組が座っておりました。
ショートパンツを履いた、まだ、恋愛の現役と言った感のある、ナウなヤングです。
まだまだ、若いな。甘ちゃんだと、思ってたような思わなかったような私でした。
妻と話していて気づかなかったんですが、私の右隣には、大学生くらいの若者がいます。なーんか、私と距離が近く座っているなーと。パーソナルスペースを気にしつつ、妻にくだらない話をして、無視されつつ、電車は進みます。
電車が、田園調布駅に差し掛かったころでしょうか?
その若者が、私に話しかけて来ます。ボソ、ボソ、ボソ。。
えっ?
私、殴られるのでしょうか?ありゃー変な奴の隣になっちまったなー。
と、身構えると、彼のひそひそ声が聞き取れてきます。
あの奥に座ってる、おっさん見てみてください。
あの子達を盗撮してますから。
僕、彼の盗撮現場抑えますから、協力してくれませんか?
えっ?
ええええええええー!
めんどくさいよーー!

妻が驚いて聞いてきます。
どうしたの?
いや、なんか、盗撮してるおじさんを捕まえるから、協力してくれって!
妻も同じ反応です。
えっ?
ええええええええええ!
電車は進みます。
武蔵小杉駅に着いた時、女性2人は降りていきました。
この電車は日吉で終点。
若者、どうするんだ?
おじさんはいるけど。
捕まえないの?
元住吉、日吉と電車は進みます。
次は、日吉、終点です。
どうする?若者?
どうするのよ?若者?
若者、おもむろに立ち上がり、おじさんの前に仁王立ちしました。
日吉に到着すると同時に、若者、おじさんの胸ぐらを掴みます。
盗撮してただろう?
若者は、おじさんの携帯を取り上げます。おじさんの抵抗する力とともに携帯が妻の側に跳ねて転がりました。。
その携帯を拾う私。
駅員を呼ぶ妻。
駅員が数人やってきたところで、若者、駅員に盗撮おじさんを引き渡します。
「このひと盗撮してましたよ」
私は駅員に携帯をただ、渡しました。観念して俯くおじさん、左手に指輪をはめてました。若者の力で引きちぎられたふなっしーのストラップが虚しく転がります。
ああ、ふなっしー、かわいそうなふなっしー。娘さんにもらったストラップでしょうか?
若者、私に言います。「ありがとうございます。助かりました。」
私は、わかったような口をききます。「偉いねー勇気あるな。」
「あとは、駅員に説明するんで、大丈夫です。」
と、駅務室に消えて行った若者とおじさん。
我々夫婦は、その光景を唖然として目で追っていました。
考えたら、特に正義も感じずに流されるままに、若者に付き合わされてた私達。。
おじさんの行為を考えたら、決して許せるものではないけれど、奥さんにも子供にも会社にもバレて、社会的に抹殺されることを考えた時、若者の純粋な正義感は、ただ、残酷なものにしか、感じられなくなっていました。
正義って、綺麗なものではない気がします。
そして、あのおじさんが盗撮していたという携帯の中身は本当に、女性が映っていたんでしょうか?
実は、電車の外に映る景色を撮っていただけかも。もしくは、何も撮っていなかったかも。
あー、正義。
暑苦しくて、気味の悪い、正義という代物。