トレンディーよ、さようなら。

 80年代後半。

バブル絶頂期のあの頃。

世の中は、浮かれてました。

私は、当時、まだ、中学生でしたが、フジテレビのトレンディードラマのバブルな設定に、視覚、聴覚を刺激され、ふわふわとした憧ればかりが、頭の中を支配していました。

「大人になれば、あんな恋愛が出来るのか!」(できるんだな?)

と、近所のコンビニで、雑誌「MEN'S NON-NO」を立ち読みし

ファッションはどうすればいいかを研究しました。

「紺ブレにチノパン、足元は、素足にモカシンなのか?」

「そうなのか!そうなのか!」(なのか?)

と意味の分からない英語が書いてある、黄色いトレーナーにジーンズ姿の私は、

雑誌の中にある、買えもしない高価なブランド品を買う気になっていました。

 そんなあこがれトレンディーな私に、気になる人が現れます。

なつみさん(仮名)です。

勝手に、当時好きだった、トレンディ女優浅野ゆう子に雰囲気が似ているような気がして、好きになっていました。

ある日、何かのきっかけで、友人の繁君の力を借りて、仲良くなり、友人の繁君の力を借りて、打ち解けるうちに、あこがれトレンディの私は、こう考えます。

「告白して、ドラマのような恋愛をする!」(いや、いや、恋愛のレの字も知らないけどね。)

告白の定番と言えば、校舎の裏に呼び出しての「好き」です。

しかし、奥手の僕です。校舎の裏に呼び出して、なんて、恥ずかしくて出来ません。

ましてや、友人の力を借りたら、好きな事がばれてしまうではないか!

そうすると、手段は、手紙か電話しかありません。

手紙は、字が汚いからやめとこう。字で振られてしまう。

やっぱり、電話だ。電話しかない。

しかし、当時は、携帯は普及しておらず、自宅に電話しなければ、話すことが出来ません。

自宅の電話の最大の難関は、お父さんです。どうしよう?お父さんが出たら、お父さんが出たら、どうしよう?

困った、弱った、どうしよう?(当時、まだ、存命だった祖父の口癖です。これ。)

 

全身を震わせながら、ダイヤルを回し、コール音。

5回ほど、コールしたでしょうか?

「はい?どなた?」

(おかぁさんでした。)

「あっ・・・、あのあの、あの、僕、同じクラスの寺島です。連絡網でー」

「はーい、ちょっと待ってねー。なつみちゃーん!」

(軽い感じです。良かった。おかぁさんで。)

ドキドキします。「なにせ、これから告白するんだもんね。」

「俺、告白するんだもんね。」

と軽い心持ちで、自分を落ち着かせていると、彼女が電話に出ました。

「あー、寺島君!」

彼女もごく自然に電話に出て、

会話が和やかに進んでいきました。

和やかに進んでるがゆえに、私は焦りました。

(「いかん!今日は、告白の電話なんだ。そうなんだ。早く言わなきゃ、早く、気持ちを伝えなくちゃ!」)

 突然、私は、何の脈絡もなく、こう、言っていました。

「というわけで、こ、こ、今度…」

 

「俺と、サシで飲みに行かない?」

いつの間にか、私は、

トレンディードラマの主人公ではなく、任侠ドラマの主人公になっていました。

 

いつの日か、青春調書の提出を求められた時には、この部分は、全て黒塗りとなるでしょう。